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福岡地方裁判所 昭和52年(わ)458号 判決

主文

被告人を懲役三月および罰金二〇〇・〇〇〇円に処する。

この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは、金二・〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本件公訴事実中昭和五二年(わ)四五八号事件5の点につき被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、福岡市博多区博多駅前三丁目六番一号小森ビル五〇二号室の事務所で貸金業を営むものであるが、

(一)  昭和五〇年一一月四日小林哲也に対し、期間三二日とする五二六・〇〇〇円の貸付として利息七六・〇〇〇円を天引した四五〇・〇〇〇円を交付し、同年一二月五日右事務所において同人から五二六・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から四五〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして三二・八〇〇円こえる一日当たり〇・五二七パーセントの割合による右利息を受領し、

(二)  同年一一月二八日同人に対し、期間五四日とする五〇〇・〇〇〇円と期間五九日とする七〇〇・〇〇〇円の合計一・二〇〇・〇〇〇円の貸付として、前者貸付分利息九三・七五〇円と後者貸付分利息一三一・二五〇円の合計二二五・〇〇〇円を天引した前者貸付分四〇六・二五〇円と後者貸付分五六八・七五〇円の合計九七五・〇〇〇円を交付し、昭和五一年一月二〇日同事務所において同人から五〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から四〇六・二五〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして一二・七五〇円こえる一日当たり〇・三四七パーセントの割合による利息九三・七五〇円を受領し、同年同月二五日同事務所において同人から七〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から五六八・七五〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして七・三五〇円こえる一日当たり〇・三一七パーセントの割合による利息一三一・二五〇円を受領し、

(三)  同年六月二六日鬼倉秀明に対し、期間一三日とする五〇〇・〇〇〇円の貸付として利息四〇・〇〇〇円を天引した四六〇・〇〇〇円を交付し、同年七月八日同事務所において同人から五〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から四六〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして一九・三〇〇円こえる一日当たり〇・五七九パーセントの割合による右利息を受領し、

(四)  同年八月二日同人に対し、期間三〇日とする五〇〇・〇〇〇円の貸付として利息四五・〇〇〇円を天引した四五五・〇〇〇円を交付し、同年同月三一日同事務所において同人から五〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から四五五・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして四・〇五〇円こえる一日当たり〇・三二九パーセントの割合による右利息を受領し、

(五)  同年九月九日飛田伸一郎に対し、期間一六日とする三三〇・〇〇〇円の貸付として利息三〇・〇〇〇円を天引した三〇〇・〇〇〇円を交付し、同年同月二四日同事務所において同人から三三〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から一日当たり〇・三パーセントを金額にして一五・六〇〇円こえる一日当たり〇・六二五パーセントの割合による右利息を受領し、

(六)  同年一一月一二日同人に対し、期間九日とする九〇〇・〇〇〇円の貸付として利息六五・〇〇〇円を天引した八三五・〇〇〇円を交付し、期間を延長したうえ、同年一二月二〇日同事務所において同人から一・九〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から八三五・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして九六七・三五〇円こえる一日当たり三・二七パーセントの割合による利息一・〇六五・〇〇〇円を受領し、

(七)  同年一一月一四日同人に対し、期間七日とする六三五・〇〇〇円の貸付として利息三五・〇〇〇円を天引した六〇〇・〇〇〇円を交付し、同年同月二五日ころ同事務所において同人から六三五・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から六〇〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして八・〇〇〇円こえる一日当たり〇・三八八パーセントの割合による右利息を受領し、

(八)  昭和五〇年一一月一九日九州港湾産業株式会社代表取締役原口健介に対し、期間九日とする一・〇〇〇・〇〇〇円の貸付として利息七〇・〇〇〇円を天引した九三〇・〇〇〇円を交付し、同年同月二七日同事務所において同人から右利息の弁済を受け、もって同人から九三〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして二八・一五〇円こえる一日当たり〇・五〇一パーセントの割合による同利息を受領し、期間を延長したうえ、同年一二月五日同事務所において同人から一・〇〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から九三〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして二八・一五〇円こえる一日当たり〇・五〇一パーセントの割合による利息七〇・〇〇〇円を受領し、

(九)  同年一一月二七日同人に対し、期間二四日とする一・〇〇〇・〇〇〇円の貸付として利息八〇・〇〇〇円を天引した九二〇・〇〇〇円を交付し、期間を延長しその分は月七分の利息をとったうえ、昭和五一年三月一〇日ころ同事務所において同人から一・〇〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から九二〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして一三・七六〇円こえる一日当たり〇・三六二パーセントの割合による利息八〇・〇〇〇円を受領し、

(一〇)  同五〇年一二月一七日小林哲也に対し、期間四六日とする九五〇・〇〇〇円の貸付として利息一五二・〇〇〇円を天引した七九八・〇〇〇円を交付し、期間を延長しその分は月七分の利息をとったうえ、同五一年三月一〇日ころ同事務所において同人から九五〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から七九八・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして四一・八七六円こえる一日当たり〇・四一四パーセントの割合による利息一五二・〇〇〇円を受領し、

(一一)  同五〇年一二月二〇日同人に対し、期間三〇日とする一・三〇〇・〇〇〇円の貸付として利息一七〇・〇〇〇円を天引した一・一三〇・〇〇〇円を交付し、期間を延長しその分は月七分の利息をとったうえ、同五一年七月ころ同事務所において同人から一・三〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から一・一三〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして六八・三〇〇円こえる一日当たり〇・五〇一パーセントの割合による利息一七〇・〇〇〇円を受領し、

(一二)  同年二月二五日富永深に対し、期間三〇日とする一〇・〇〇〇・〇〇〇円の貸付として利息一・〇〇〇・〇〇〇円を天引した九・〇〇〇・〇〇〇円を交付し、期間を延長しその分は月六分の利息をとったうえ、同年四月二七日ころ同事務所において同人から一〇・〇〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から九・〇〇〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして一九〇・〇〇〇円こえる一日当たり〇・三七パーセントの割合による利息一・〇〇〇・〇〇〇円を受領し、

(一三)  昭和五二年一月三〇日今林虎男に対し、期間一七日とする一〇〇・〇〇〇円の貸付として利息七・〇〇〇円を天引した九三・〇〇〇円を交付し、同年二月一五日同事務所において同人から右利息の弁済を受け、もって同人から九三・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして二・二五七円こえる一日当たり〇・四四一パーセントの割合による同利息を受領し

たものである。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用など)

(一)  被告人の判示(一)ないし(一三)の各所為はそれぞれ出資法五条一項に該当する(判示(二)と(八)の各所為はそれぞれ利息受領二回の包括一罪)が、いずれも所定の懲役刑と罰金刑を併科し、以上は刑法四五条前段の併合罪なので、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示(六)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示(一)ないし(一三)の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期および金額の範囲内で被告人を懲役三月および罰金二〇〇・〇〇〇円に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右の懲役刑の執行を猶予し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二・〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することにした。

(二)  昭和五二年(わ)四五八号事件公訴事実5の「被告人は、同五〇年一二月三〇日前記事務所において小林哲也に対し、期間三二日とする一・〇〇〇・〇〇〇円の貸付として利息一〇〇・〇〇〇円を天引した九〇〇・〇〇〇円を交付し、もって同人と九〇〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして一三・六〇〇円こえる一日当たり〇・三四七パーセントの割合による右利息の契約をし、そして同五一年一月三〇日右事務所において同人から一・〇〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から同利息を受領した。」との点につき、関係証拠を検討すると、前記金銭の貸付と交付は認められるが同利息の契約と受領は認められず、もっとも被告人は利息天引による右金銭貸付のさい名目元本額一・〇〇〇・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三一二パーセントの割合による利息の天引契約はしたのであるところ、出資法五条三項が出資法五条一項の適用につき利息天引による金銭貸付にあっては交付額を元本額として利息を計算する旨規定しているから、利息天引による金銭貸付の場合における名目元本額に対する利息の天引契約そのものは、たとえ利息が出資法五条一項所定の割合をこえるものであっても出資法五条一項違反とすることができない法理となり、それから出資法五条三項を、利息天引による金銭貸付につき交付額を元本額として利息の契約をしたものとみなされると解するのは文理上無理であり、そうであるから出資法五条一項違反の利息契約は利息天引によらない金銭貸付の場合にかぎるのであり、そして出資法五条三項の適用は利息天引による金銭貸付の場合のうちの利息受領にかぎるのであって、つまり利息天引による金銭貸付の場合に出資法五条一項違反は利息受領にかぎると解するのが相当であり、なお利息の天引をもって現実に経済的利益を享受したものとして利息の受領にあたるという見解(判例タイムズ二〇九号二五〇頁)があるけれども、天引利息は、天引時において架空なものにすぎず、あくまでも授受により現実化するものであるから右見解には同調することができず、これを要するに前記公訴事実5については出資法五条一項違反の証明がないことになるので刑事訴訟法三三六条後段により無罪の言渡をすることにした。

(三)  同五二年(わ)四五八号事件公訴事実7の「被告人は、同年一月三〇日前記事務所において今林虎男に対し、期間一七日とする一〇〇・〇〇〇円の貸付として利息七・〇〇〇円を天引した九三・〇〇〇円を交付し、もって同人と九三・〇〇〇円に対する一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして二・二五七円こえる一日当たり〇・四四二パーセントの割合による右利息の契約をした。」との点につき、関係証拠を検討すると右金銭の貸付と交付は認められるが同利息の契約は認められず(註―なお前記(二)の説示参照)、それから前記事件公訴事実8のうち「被告人は、同年三月一五日前記事務所において今林虎男から一〇〇・〇〇〇円の弁済を受け、もって同人から一日当たり〇・三パーセントの割合を金額にして一・六三五円こえる一日当たり〇・三三九パーセントの割合による利息(七・〇〇〇円)を受領した。」との点につき、関係証拠を検討すると右一〇〇・〇〇〇円の弁済は認められるけれども、その一〇〇・〇〇〇円は前記公訴事実7の貸付金に対する弁済であり、被告人は右貸付金につき判示(一三)のとおり同年二月一五日に利息七・〇〇〇円の弁済を受けているから、被告人が同年三月一五日弁済を受けた一〇〇・〇〇〇円の中に含まれる利息七・〇〇〇円は貸付交付額九三・〇〇〇円に対する二八日分の利息という結果となって一日当たり〇・三パーセントをこえない〇・二六八パーセントの割合となるので出資法五条違反にならないが、前記公訴事実7の点は判示(一三)の利息受領との包括一罪として起訴すべきものだったのであり、前記公訴事実8中三月一五日利息受領の点は判示(一三)の利息受領との包括一罪として起訴されているから、右両点につき主文において無罪の言渡をしないことにした。

(四)  判示(二)(四)(六)ないし(一三)事実については、訴因変更がないまま元金の受領年月日や金額、超過利息金額、一日当たり利率のいずれかを訴因と違って認定し、もっとも判示(六)事実については、受領元金額と超過利息金額が、それぞれ訴因で九〇〇・〇〇〇円と二七・四二五円になっていたのを、それらより著しく高額な一・九〇〇・〇〇〇円と九六七・三五〇円と認定したのであるが、被告人において右一・九〇〇・〇〇〇円受領は捜査段階から認めており、ただ該金額には他の貸金分も含まれていたかどうかの点につき被告人と相手方の供述がくい違っているが、その点につき当公判廷で被告人に確かめたけれども曖昧であるから、訴因変更の有無により被告人の防禦に影響はないと考えたのであり、なお昭和五二年(わ)四五八号事件公訴事実2、3、4、6には利息契約の点も含まれているが、その点については、証拠上認められない(註―なお前記(二)の説示参照)けれども、それぞれ判示(九)(一〇)(一一)(一二)の各利息受領の点との包括一罪として起訴されているから、主文において無罪の言渡をしないことにした。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 田尻惟敏)

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